相続のキホン
- 相続を安心して終わらせるための基礎知識
相続ですべきこと
相続というと人間の死に係る問題なので難しい、特殊なイメージがあるかもしれません。相続は、これまでに学んだように売買・贈与と似た、財産の新しい持ち主を決める手続ですので、売買・贈与・相続の登場人物・物は、(1)今の持ち主、(2)財産、(3)新しい持ち主、で同じです(図3、図4)。
相続の手続を進めるためには、(1)今の持ち主(他界した人)、(2)財産、(3)新しい持ち主(財産をもらう人)という3つの登場人物・物を、まず決めなければなりません。売買や贈与は法律上「契約」に該当しますので、3つの登場人物・物は契約書に通常、が記載されます。したがって、これらが誰(何)であるかは契約書を見ればわかります。
相続の場合には、財産の持ち主が他界すると、相続という、新しい持ち主を決める手続が法律上自動的に行われます。そのため、相続の契約書というものはありません。相続の手続を進めるため、(1)現在の持ち主、(2)財産、(3)新しい持ち主、を決めるには、何らかの方法でこの3つの登場人物・物を調べなければなりません。具体的にどのように調べるかは、別の項目で学ぶことにします。
相続での登場人物・物を調べたら、次に、財産の新しい持ち主同士で、誰がどの財産をもらうかを話合う必要があります。新しい持ち主が1人である場合には、その1人が全ての財産をもらうので、この話合いは必要ありません。新しい持ち主が1人でない場合(つまり2人以上である場合)には、誰がどの財産をもらうかを話合い、全員が納得しなければ、相続の手続を終わらせることができません。
売買でも新しい持ち主が1人でないことはありますが、多くの場合は新しい持ち主は1人です。また、新しい持ち主が1人でない場合でも契約書に、誰がどの財産の新しい持ち主になるか書かれています。つまり、売買では、新しい持ち主同士で話し合う必要はなく、あくまで、現在の持ち主(売主)と新しい持ち主(買主)との話合いで合意すれば、売買の手続は終わります。相続の場合には、新しい持ち主が複数であれば、新しい持ち主同士で話合い、誰がどの財産をもらうか、全員が合意する必要がある点で、売買とは異なります。
相続で、(1)現在の持ち主、(2)財産、(3)新しい持ち主を調べ、新しい持ち主全員で誰がどの財産をもらうか話合い、合意したら、それで相続の手続は完了です。なお、財産の新しい持ち主が決まったら、財産の名義を新しい持ち主に変更しますが、それは、売買・贈与と同じで特別なことはありません。
相続ではいろいろな話がでてきますが、その話が図5のステップ①(3つの登場人物・物の調査)、ステップ②(新しい持ち主間の話合)、ステップ③(新しい持ち主へ名義変更)のどの部分の話か、頭の中で全体像の中での位置付けを明確にしながら理解すると、知識が整理しやすくなります。図5が相続の全体像として地図の役割を果たします。
ここまでの話で、相続のキマリ(民法)の大きな流れを学びました。相続にはもう一つ理解しなければならない、大きな流れがあります。それが、相続のゼイキン(相続税)です。相続のゼイキンは相続税と呼ばれるものです。相続税の手続は、相続で財産をもらった人全員がしなければいけない、というわけではありません。他界した人の財産が一定の金額以上(つまり、一定以上のお金持ち)である場合にのみ、相続税の手続をしなければいけないことになっています。そのため、相続税の手続が必要かどうか判断することが、まず重要なポイントとなります。
相続税の手続が必要ない場合には、相続のキマリ(民法)だけを考えればよいので、図5のステップ①②③を行えば相続の手続は完了します。